生産スケジューリング システム化と運用手順
2008.04.10
当社には、長年の経験と勘をもった達人的な生産スケジューリング担当者がいて、その人が作成した生産スケジュール結果を運用しています。その生産スケジューリング担当者が1,2年後に定年を迎えます。若い人に引き継ぐにもこの生産スケジューリングとその運用内容を伝授するのは内容が膨大で、かつ、曖昧でシステム化されていないため、伝授は不可能に近いのが現実で、コンピュータによるシステム化して運用することを検討しています。生産スケジューリングシステムの導入および運用はどのような手順で行えばよいのでしょうか。
実際のデータでのプロトタイプシステムを作り、運用をイメージせよ
経験や勘に頼った生産スケジューリングの運用では、いつかは行き詰まる
私が今まで訪問した多くの工場では、生産スケジューリングを人間の経験や勘に頼って運用しているのが現実である。そこには、必ずといっていいほど高度な経験と勘を持った達人的な生産スケジューリング担当者がいて、みんながその生産スケジューリング担当者の生産指示を運用して日々の生産を行っている。
たとえば、某会社では、「達人の生産スケジューリング担当者が風邪で休むと、工場の人が自宅まで押しかけていって、枕元で生産指示を伺って、やっとその日工場が動く」という状況だ。冗談のような話だが事実なのだ。また、貴社の例のように生産スケジューリング担当者が、1、2年後に定年になるというのは危機的な状態といえ、システム化は重要課題である。
生産スケジューリングのコンピュータによるシステム化は可能
生産スケジューリングは、人間の経験や勘を扱うためにコンピュータによるシステム化は非常に困難とされてきた分野である。かつては、生産スケジューリングのシステム化のためには、パッケージとカスタマイズで数千万円以上の費用が必要であった。そのような多額のお金をかけても生産スケジューリングシステムを開発・運用するメリットは大きい。
しかし、現在ではパソコンが急速に高性能になり、コンピュータによる生産スケジューリングのノウハウの蓄積が十分になってきたことから、比較的安価に生産スケジューリングシステムの導入と運用が可能になってきている。以下に、弊社の生産スケジューリングシステムの導入経験から得られた標準的な導入、運用手順を示す。
(1)まず、生産スケジューリングソフトを用いてプロトタイプシステムを作る
財務会計や給与計算などと異なり、生産スケジューリングは工場によって事情が大きく異なるため、生産スケジューリングのパッケージソフトの体験版等を利用して、自社のデータで実際にプロトタイプを作り、Q2のようなデータを用意して入力し、生産スケジューリングを実行して、自社の工場の運用に耐えうるかどうかを判定すればよい。
要求仕様が標準機能でシステム化できる部分もあれば、運用でカバーする部分もありうる。ここで注意したいのは、すぐに個別のカスタマイズに走らないこと。カスタマイズは期間と費用がかかり、また、生産スケジューリングソフトのパッケージとしての汎用性を殺してしまう。生産スケジューリングソフトの標準機能でできない部分は運用でカバーなどの工夫をまず考えることが必要だ。理想を追い求めすぎるのも生産スケジューリングシステム導入の失敗の原因になる。複雑すぎるシステムは運用に耐えないこともある。自社だけでは判断に困る場合には、生産スケジューリングシステムの導入・運用のコンサルテーョンを受けるのも一つの方法だ。
(2)既存システムと生産スケジューリングシステムのインターフェースを作る
生産スケジューリングシステム運用時、既存の生産管理システムとの連携をとる場合が多い(図1)。
図1-生産スケジューリングシステムと既存システムの連携。生産スケジューリングシステムは、既存システムとの連携を取ることにより、計画業務のよりスムーズな運用が可能となる。連携するデータは主に(1)受注情報、(2)マスタ情報、(3)製造指示、(4)実績情報の4種類である。既存システムとの連携は、Microsoft Access等で開発できるのでユーザが事前で行うことも可能である。 |
連携をとることにより、スムーズな生産管理業務が可能となる。現在は、Microsoft Accessなどユーザでも簡単にプログラム開発できる環境が揃っているため、既存システムと生産スケジューリングソフトのインターフェース等の周辺システムを自前で開発・運用できる。
また、周辺システムの自社開発により、自社にノウハウが蓄積され、運用中のシステムの機能追加・変更等が迅速にできることもメリットだ。
(3)生産スケジューリングシステム用の本番データを準備する
本番データの準備は通常、相当な労力がかかる。場合によるが、1人の人間が専任で1ヶ月から2ヶ月くらいかかると思っていたほうがよい。たとえば、部品表(BOM : Bill of Material) というマスタでは、スケジューリング対象品目に絞っても通常数万レコードになる。また、既存の生産管理システムにマスタデータが存在する場合には、そのデータを取り込むなど有効活用することも重要だ。特に、マスタデータを2重に持つというのは避けた方がよい。
(4)運用テスト
スケジューリングソフトにマスタデータと周辺システムを結合して運用テストを行う。運用テストも1ヶ月から2ヶ月程度かかると見ておいたほうが良い。データ量が多いほど運用テストは大変な作業になる。生産スケジューリングシステムで作成した製造指示が現場で運用時使えるかどうか確認する。時には生産スケジューリングシステムで作成した製造指示は、現場にとっては忙しすぎて、現場が運用時ついていけないことがある。その場合、生産スケジューリングシステムのパラメータを変更して、生産スケジューリング結果に適度な余裕を持たせるなどの運用時を考慮した調整が必要だ。この余裕は運用中に段階的に小さくしていけばよい。
(5)保守
上記のような手順で生産スケジューリングシステムを、運用開始時点で工場にぴったり合うように立ち上げたとしても、2, 3年運用する間に工場の方の事情も必ずといっていいほど変化する。この運用時の変化にうまく追従していかないと、2, 3年で運用が止まってしまうことになりかねない。生産スケジューリングシステムは多くのユーザの意見や要望を元に機能強化を繰り返している。この機能強化を取り入れ、長年運用できるシステムに維持するために保守契約は必須だ。また、生産スケジューリングシステム運用時の新たな要望をパッケージメーカー側にこまめに要求することも重要だ。